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21年目のタイムカプセル


2001/05
■21年目のタイムカプセル…時を超えた師弟の心の交流

 2001年4月1日午前10時、埼玉県の川口市立前川小学校で、21年前に子ども達の夢を詰め込んだ「21世紀へのタイムカプセル」が開封される行事があった。この模様は、たけしの「アンビリーバボー」でも放映された。ご覧になった方もあったかもしれない。1980年3月に同校を卒業した子ども達と担任とが保護者の協力を得て、この日に開封しようと約束をして埋めたものであった。

 当時、同校の学年主任だった斉藤晴雄さん(69歳、前埼玉教育文化研究所事務局長)の呼びかけに、当日は卒業生256人のうち131人が集まった。当時の生徒達は今は33歳〜34歳、社会の中枢で活躍する世代になり、夫婦や子ども連れで参加した人たちも多く、約300人が交歓し合った。

 21年という歳月は短いようで長い。当時、タイムカプセルを作ってくれた保護者の建築業者の方はもうこの世にいない。代わって、その兄弟の方が開封に協力してくれた。コンクリート詰めされたタイムカプセルが開封されると、中には水が溜まっていた。ひととき立ち会った人々の間に不安がよぎる。が、中の保存状態は良好で、21年前に封入したままの姿で眠っていた。

 まだ小学6年の子どもたちであった当時、21世紀の幕開けに当たっての自分を思い描いた作文や絵画をはじめ、名札や通学帽、手形や録音テープ、教科書、新聞、そしてこの日をみんなと祝うために斉藤先生が埋めておいたダルマウイスキーなどが、当時のままの姿で現れ、周りから歓声があがった。

 参加した一人ひとりに当時自分が詰め込んだ品々が手渡される。子ども時代の作文や絵を見てそれぞれに懐かしい思い出が甦る。自分の夢を実現した人、全く別の道に進んだ人、先生を心配させたが今は幸せな家庭生活を営んでいる人など様々な卒業生の姿があった。残念なことに、その中にこの日を待ち望みながらすでに他界してしまった人もいた。その人に代わって姉妹が参加して当時の思いに浸っていた。この21年間の間、一人ひとりにそれぞれの人生があり、それぞれのドラマがあったのだ。

 この日の最大のイベントは、タイムカプセルと共に21年の時を隔てたこの師弟の再会のドラマに他ならない。この約束の日を待ちわび、先生との再会を楽しみにしていたたくさんの生徒達が参加した。信頼と思いやりで結ばれた師弟の絆。そこには本来の意味での教師と生徒との心の交わり、あるべき教育の姿が自然に形成されていた。

 教育とは何か ― 現在、学校教育が様々な問題を抱え、学校教育のあり方、学校教育の存在理由そのものさえ問われ始めている。この21年の時を隔てた師弟の再会のドラマは、その問いに対する一つの解答を示していたように見える。そこには本当の教育があった、教育とは本来こういう姿のものであった、教師という仕事は何と素敵な仕事であろう、そういうことを実感させてくれるものであった。

 斉藤先生から学んだかつての子ども達は、今や社会の中枢で活躍する世代となり、社会での仕事とともにまた次世代のために子育てに励んでいる世代でもある。素敵な先生との出会いによって培ったものは確実に彼らの血肉となって、それを次の世代へと確実に受け渡していくことであろう。
     *     *     *
 斉藤晴雄さんには、かって『ニコラ』でインタビューしたことがある(1997年7月号25「教育の条理を求めて」参照)。
 その中で、斉藤さんは「教育という仕事は、子どもが人間として育っていくというものを助ける働きです」「教育というのは時の政治の論理で簡単に変わったり、いじれるものではない」「教育の条理に合ったものだけが静かな説得力を持って広がっていく」「(教育には)ある意味で希望を持っています。」と静かな口調で語っていた。


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