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最新フリーター事情


2000/09
フリーターが語る理想と現実…あなたもフリーターを目指しますか?

■フリーターを指向する若者たち

 いくぶん好転の兆しが見えてきたとはいえ、不況が長引き、高い失業率が続いている中で、中高年者の就職・再就職の深刻な問題がある一方、大卒や高卒の若者たちの就職難の問題が暗く横たわっている。特に高卒者の就職問題は深刻だ。

 このような状況を反映してか、一方で学校を卒業してもすぐに定職に就かない若者が昨今とみに増えている。いわゆるフリーター問題である。たとえいったん就職したとしても、三年ぐらいで辞めていく若者たちも多い。巷ではこれを称して「7・5・3」と言うらしい。就職後に3年以内で辞める割合が、中卒は7割、高卒は5割、大卒は3割という意味だという。若者たちの就職に対する考え方が変わってきたのかもしれない。
 労働省が6月27日発表した「2000年版労働白書」によると、日本のフリーター人口は男性61万人、女性90万人の計151万人に達し、92年からのこの5年間で50万人も増えたという。大卒者の4人に1人、高卒者の3人に1人がフリーターだという。

 就職難に加えて、自分が希望する職種がなかなか見つからないとか、会社組織に縛られたくないとか、目標を先にのばし取り敢えず生活のためのお金があればいいとか、自分がどんな仕事をしたいのか、どんな仕事が適しているか、働くとはどういうことかということが分からない若者が増えていることなどが背景にあるとも言われる。

 ちなみにフリーターとはもともとは和製外国語のフリーアルバイターの略で、就職情報誌のリクルートが考案した言葉だというが、労働白書では、@年齢15歳〜34歳、Aパートやアルバイトで働く者で、男性は継続就業年数5年未満、女性は未婚者、B現在は無業だがパートやアルバイトを希望している者、と定義している。
 また、労働省の外郭団体・日本労働研究機構では、フリーターの特徴を、@モラトリアム型、A夢追求型、Bやむをえず型などに分類している。


■フリーター問題を考える勉強会

 そういう中、各地でフリーター問題を考える会が開かれている。埼玉県でも、高校教員や大学教員、あるいは労働組合関係者、学生援護会、報道関係者、その他教育に関心のある人たちが集まって定期的に学習会を開いてきた。また、高校生や大学生などの若者のサークルの間でも、実際にフリーターをしている青年たちを招いて学習会なども開いたりしている。フリーター問題は当の若者たちにとっても無関心ではいられない問題となっている。

 埼玉の「フリーター問題を考える会」では昨年から、若者の就職や生き方に関心のある人達が話し合っているが、その中で「学校は教養だけを教えていていいのか」「若者のアルバイト体験の持つ意味を考えるべきだ」などの意見が出た。また、具体的な高校の事例をあげて高校の指導の現状や就職の問題などが話し合われた。

■高校での就職指導の実際

 埼玉県南部のT高校は、いわゆる教育困難校といわれる部類の高校で、偏差値は40を切っている。一学年がスタートした時は留年を含め294名の生徒がいた。2学期には207名。病欠・休学を差し引くと200名を少し超える程度。中には通信制高校などに転校した生徒もいるが、そのほとんどは退学だという。
 生徒たちの就職希望者は割合は高く200名中120名くらいに上る。他の生徒は進学希望者である。進学希望者の大半は推薦で決める。今の大学進学は希望さえすれば誰でも行けるようになっているという。女子の短大や専門学校への進学も、学費さえあれば可能だ。問題は就職希望者の場合である。就職希望者120名のうち実際に就職するのは70名くらい。その中に自営などで働く者が10名程度いるが、他は就職をあきらめるかフリーターになる。

■厳しい高校生の就職状況

 高校生の求人数が年々減っている。かつて2000社近くあった求人が一昨年は800社、昨年は670社、そして今年は464社であった。金融関係は0。女子の事務職や販売等も少なくなっている。あるのは現場の作業や工事のような仕事で3Kや5Kと言われる仕事ばかり。

 高校側の就職指導については、今まで併願禁止となっていて、1人1社しか受けることができなかった。それが今までは伝統のようなものになっていて、高校側と企業の側の信頼関係でうまく機能してきていた。しかし、今は地元の企業でも蹴られることが多くなっている。
 また、近頃は大学生との競合も避けられない。高校の場合、職安を通すと就職活動は7月以降となるが、大学生の就職活動が早くなって、しかも本来は高卒の職種の領域にまで大学生が入ってきている。高校が企業とのパイプ役を果たすのは無理になってきているのだ。高校生の就職に関する既得権を維持するためには、大学生と競合しないルールを作ること、大学生の就職協定を作ることが必要になっている。大学生の無原則な就職活動が大学教育そのものをも破壊している面もあるという。その背景には、企業の側のモラルの崩壊があるとの指摘もなされた。

 A高校では220名中進路未定者は58名。そのうち最初からフリーター希望者は40数名に上る。高校の進路指導を一切受けない生徒もかなりいる。今までは、マナーや常識などを身に付けて社会に出ていって欲しいというスタンスがあったが、進路指導の一環としてそのようなことを位置づけることも段々薄れてきているという。この高校も1学年で60名ほどが中退している。

 F高校(工業)(付属高校)では退学者が30名程度でるが、幸い60名の就職希望者のほぼ100%が内定した。しかし、中には4回目でやっと決まったという生徒もいる。企業側からすると、とにかく誰でもいいから来てくれという所に決まっている。つまり、メッキ工場や木材関係など、就職する側からすると、やはり3Kとか5Kとか呼ばれる職場で、身体が持たず定着率が低いところである。もちろん、定着率の悪さは、遅刻が多いとか対人関係が結べないとか、社会に適応する基本的条件とも言える敬語が使えない、礼儀がなっていない、文章が書けないなどということも理由としてあるという。

 学生援護会のKさんは、日本とアメリカでは職業教育に対する考え方が違うと話す。日本の教育では生徒をとかく純粋培養しがちであるという。子どもや生徒が社会に触れることの功罪について、日本の場合は罪と考える傾向にあるという。その結果、アルバイトやフリーターの若者に労働者の自覚が生まれないことにもつながっているようだ。

 職安や労働組合は雇用を前提とした取り組みしかしていない。しかし、動きは今雇用ではない所に向かっている。会社にとって正社員として雇用することは保健の負担など給与以外の負担が大きい。だから、フリーターや人材派遣など業務請負的な方向でまかなうようになっている。

 その他、フリーターを指向する若者の特徴について、参加者の中から「生活がかかっていないからか、稼ぐというのではなく楽しければいいという考え方だ」「金がそこそこであれば権利を主張しないし、他と比較した条件も考えない」「フリーターの年齢制限をあまり考えていない」「主婦のパートの場合は夫の生活費で守られているという違いがある」などの意見が出された。

■フリーターの事例から考える

 6月3日の「フリーターを考える勉強会」では、実際にフリーターをしている若者の立場からの調査と報告がなされた。その中から幾つかをまとめて紹介する。

S君25歳、男性。
 演劇の専門学校を卒業した。都内のガソリンスタンドで午後10時から午前8時まで、週5日間働いている。時給は1300円(夜勤手当+資格手当)。
 都内で1人暮らし。役者志望でフリーター歴5年。以前はファーストフードでアルバイトをしていたが、「昼の時間を有効に使いたい」「収入を上げたい」とガソリンスタンドの夜勤に変えた。危険物乙種の資格を取得したためどこでも優遇されるという。
 収入は月20万円前後。役者としての収入は年間10万円程度。舞台公演のある時は1ヶ月アルバイトを休む。公演は年3回程度。家賃は4万8千円。光熱費・通信費2万5千円。保健などは親が払っている。
 フリーターについては、「自分はフリーターとは思っていない」「目的意識のないアルバイターと一緒にされたくない」という。最近の若者のキレル現象については感覚の違いを感じているが、森首相の「神の国」発言には特に違和感は感じていない。
 職場では全員がフリーターで、学生はとらない。17歳から28歳までの15人が働いている。最終学歴は高校中退1名、大卒1名、他は高卒。目的は金稼ぎから女探しまでいろいろ。自己中心的な人が多く、挨拶はしない、遅刻はする、嘘をついて休む、注意すると逆切れする、などは日常茶飯事とか。

T君22歳、男性。
 高卒後、地方のドライアイスの会社に勤めたが1年で退社し、漫画家になろうと上京。本屋、コンビニ、ファーストフードのアルバイトを経て、現在は大手印刷会社のCPオペをやり3年目になる。午後10時から翌朝9時まで週4回の仕事。時給1310円。有給あり。月収20万円前半(社会保障・年金天引き)。家賃4万6千円。月2万円程度貯金。最近、声優に目覚め、養成所に週4日通う。社員は200人、フリーターは800人。時給は970円から。
 フリーターについては、「正社員になりたいとは思わない」「上司との付き合いが面倒」「社員もフリーターも変わらない。社員だってリストラがある」「目的がなくだらだら食っているだけだったら正社員になった方がいい」「いろんな世界や人間関係を経験することができる」などと話す。
 最近の10代の犯罪については、「愛情をもった教育を受けていない」「親のしつけの問題」。森首相の神の国発言については、「主権在民の意味が分かっていない。むかつく」などと返答した。

Y君25歳、大卒男性。
 公務員を希望して大卒後就職浪人に。市の職員の産休の臨時職員として配属される。待遇は正採用と大差はなく、フリーターの実感はない。ただ、将来が不安だという。
 月収20万円。自宅から通勤し収入は自分のもの。月10万円以上貯金している。
 最近のトピックスでは、子どもの引きこもり、神の国発言、象徴天皇制の問題などに関心がある。

Y君25歳、高卒男性。
 高卒後に就職せず魚屋で3年、バッグ屋で3年。去年の暮れから一人暮らしをしたが、生活苦で不動産の営業職に就職した。強い目的はなく、自分探し的なフリーター生活を送っていた。
 フリーターの時の月収は13万円(社会保険等で2万円が天引き)。家賃4万5千円。光熱費2万円。残りが食費や小遣いになる。食事は1日1回の時もあった。
 高卒時に就職する気になれなかった。自分はフリーターの典型だと思っている。やりたいことはいろいろあるが、時間もないし金もない。社員になりたくても高卒では責任ある仕事を任せてもらえない。
 町をぶらぶらしてウインドーショッピングをする。徘徊する感じ。家に帰ってもぼうっとすることもある。軽いうつ病にかかっているのかもしれないと感じている。

 報告者のFさんは、フリーターの魅力として、
@時間を有効に使える(時間単位で働ける・中・長期的な計画が立てられる・自由な時間が持てる)A社会の重圧を感じないですむ(正社員に比べて責任を持たなくてすむ・自分の生活が主でアルバイトは二次的な活動)B自分の個性を保てる(自分の夢や希望を実現する可能性を維持できる・最低限の自立ができる)
ことをあげている。
 フリーターの社会的な問題としては、
@自分と社会との間に一定の距離を置くことのできる立場にいる。目的意識が強く、社会と自分を客観的にとらえている。A会社や仕事に縛られたくない。自分を大切にしてもっと個性を生かした人生を送りたい。などをあげた。
 しかし、別の面から見ると、@自分が労働に埋もれることへの嫌悪感がある、A自分にとってやりがいのある仕事が何か分からない、Bマスコミなどの情報でブランドとしての職業意識を持っている、C学校を卒業しても遊び足りず遊ぶ時間やエネルギーを仕事に奪われたくない、などの問題があるのではないかと話した。そして、「若者にとって労働は自分のアイデンティティーを確立する場になりえなくなった」と言う。「労働が社会に参加するための助走ではなくなった」というのである。

 もとカウンセラーのTさんは次のように発表した。
 若年層の能力開発に触れ、「積極的なフリーターの人とやむなくフリーターしかできない人がいて、後者の人はなかなか表に出て発言してくれない」。
 また、今の産業社会は年功序列から能力による格付けを行うようになった。企業はもう一生雇ってはくれない。「個人でキャリアマネジメントをやりなさい」と、企業は自分の所で訓練して育てることから能力ある人を引っ張ってくるようになった。

 不登校とフリーターの関連も議論にのぼった。

 A君の場合。
 中学2年の6月から不登校になった。人と話すのが苦手で、親に逆らったことも反抗したこともない「素直な子」で、遅刻も早退もなく頑張り屋だった。
 家に閉じこもって1ヶ月、まず学校の先生と母親が教育相談所に行った。不登校になったのは彼にとっては一つの成長なのではないかと思う。その後、強く自分を表現し始め、遊びを通じてストレスを発散していた。卒業となって一方的に終了となったが、結局高校受験はしなかった。
 その後、大検で7年かかって資格を取得した。そして二部(夜間)の大学に入った。4年間で卒業したが就職する意志はなかった。自動車免許をとった。「学校が居場所、温室なのかなあ」と彼は思っている。パソコンを独学でマスターし、在宅でホームページ作りのアルバイトをしているが、外でするフリーターにはなることができない。

 Aさん31歳男性の場合。
 高校2年までは順調に行っていたが、夏休みから行かなくなった。「学校はつまらない。知りたいこと、やりたいことが出来ないから」と言った。
 彼は高校1年の頃からトップクラスの成績だった。幅広い知識を持ち、出来過ぎている子の印象があった。音楽・コンピュータ・パチンコなどに興味を持ち、コンピュータ雑誌で1等賞をとったこともある。株式にも興味を持った。しかし、自分がどうしたいのか明確なヴィジョンが見えていなかった。そして、自分の意志で彼は高校を中退した。
 しかし、事業は社会的知識に乏しく実現できなかった。アルバイターになって半年くらいで飽きては転職を続けた。パソコンを使う作曲に興味を持ち、「こっちでやる」と言った。「趣味のことをやりたいから仕事をしているんだ」「趣味の世界に資格はいらない、自分は趣味の世界で生きたいんだ」と言っている。彼は敢えてフリーターをポジティブにとらえている。

 だから、不登校の生徒がフリーターになっているということではない。不登校生の中には、社長になっている人も、正社員になっている人もいるのだ。

 不登校については、その他いろいろな議論が行われた。「不登校をなくすには学校を全部なくすことだ」「学校制度のみでとらえると問題が生じる」「卒業と同時に社会に放り出されるが、彼等を受け入れる機関がない」「学校の中で社会で通用する教育が出来ていないのは問題だ」「学校教育の中でキャリアアップを図る必要があるのではないか」「学校と社会の間の連携を上手くする必要があるのではないか」……等々。

 議論の過程で、フリーターの問題は、産業構造や雇用形態の大きな変化、経済・社会・教育のあり方などに関わる大きな問題であり、フリーターそのものの問題もまた若年労働者の問題が根幹としてあることなどが次第に明らかになってきた。

■フリーター問題を考える高校生交流会

 埼玉県の第4回高校生交流会が6月4日に浦和青年の家で開催された。参加者は現役の高校生と元高校生たち、そして現役のフリーターの人たち。大人はオブザーバーとして聞き役に徹した。
 議題は@フリーターを考えるA校則についての二本立て。
 ここでは前半に行われた「フリーターについて」の討論を紹介する。

 和光国際大学(4年制)を卒業して現在フリーターをしている人(女性)は、教員免許を取ったが、そのため就職活動はしなかった。卒業後、家庭教師をしていた。就職しようと思えば出来るが自分のやりたいことがあるので自分で働いてお金を貯めようと思った。自分のことは自分でやると。今日も朝3時まで働いてきた。就職をしてやりたいことをしないで後悔はしたくない。自分のやりたいことが見つかるまで続けるつもりだ。

 県立O高卒の人(女性)は、2年の頃から就職活動をした。自分は放送のDJをしたかった。自分でしゃべり、番組を作りたかった。しかし、就職の口はなく、アルバイトならということだったのでそこで働いた。結構意欲的に働いたが、スポンサーとの関係で作りたいものを作れなかった。今は知人の手伝いをしているが、他に生計を立てるためのアルバイトをしている。などと話した。

 フリーターの側から出席している高校生に、「高卒後絶対に就職したい人」の挙手をとったところ、手を挙げた人はO人。また、「大学を出た後で絶対就職したい人」もO人という結果が出た。これについて、大学生のI君は、「絶対したいということではなく、卒業した後、せざるを得ないからするんだろうな。でも、人の世話になるのは嫌だ」と述べた。

C正社員かアルバイトが
 「若い時はいいけど年取った時にやっていけるか。それなら正社員の方がいいかという気もする」「最初はアルバイトで、後から正社員にという気持ちはある」「好きな仕事が決まっていれば正社員でもいい」「手に職をつければ好きな仕事ができる」などの意見がフリーターの女性達から出された。

Cフリーターになった後で、本当にやりたいことをやる時間はあるか
 「仕事によって違うと思うが、私はアクセサリーの仕事なので時間はある。アルバイトは必ず出なければいけないというわけではない。日程を決めて出ればいい。休みたい時に休める。お金を稼ぐなら掛け持ちも出来る。貯まったお金で旅行に行ったりもしている」

C生活は一人暮らしでも成り立つのか
「一人でも生活は成り立つ。ただ、11万円くらいではきついだろう」「時給の高額なものを求めて働いている。自分の最低ラインを崩さずに、演劇などに打ち込んでいる」「アルバイトにも2種類ある。アルバイトでもいいからその仕事をやりたいというのと、お金のためにやっているというものと。この仕事で一生やりたいというものがあれば正社員になるべきだ」「企業の方の思惑でも、アルバイトを使ってやりたいということがある。アルバイトの口はあっても正社員の口はない」「しょうがないから就職しようかなというのはある」「自分のやりたいことを100%発揮出来るものならいいが…。リサーチしても分からないことが多い。ただ、技術を持っている方が会社にも都合がいい」

Cこのまま行って大丈夫かなという不安はないか
「メッチャ不安になり過ぎて…、でも、人に余り期待し過ぎるのも良くないから」

C夢とは違うけど就職しちゃおうかなというのはないか
「ない。やりたいことがある。私は掛け持ちで18万円くらい稼いでいる」「スーパー部門では1人の社員がいればいい。後はアルバイトやパートに負担がかかる。8時間働いていた。パートはきついなと思った」「フリーターにも守られている部分はある。正社員に比べて安定性に欠けるが、自分の時間が減るのは嫌だ。今は必ず週2日休める。アルバイトもやりたいことに近い。今私は資格試験に挑戦の真っ最中だ。自分の栄養になる時間をとっておきたい」

Cフリーターを名乗るプー太郎が多いのではないか
「確かにフリーターは増えている。就職したくても出来ないからだ。やることが取り敢えず見つからないし」

C目的を持ってフリーターをしているのか
「中学の時から確たる方向があった。高校を出て専門学校に入って勉強した。卒業する頃、放送関係の求人が減ってきて、就職が難しくなった」「ライブハウスが好きだった。ああいう人はやりたいこと、好きなことで稼いでいる。自分の目的を持っている人の方が輝いていた。すごく勉強にもなった。ミュージシャンだけでなく客と話していてもそうだった。私もそうしたいと思った」

Cフリーターは一人前の人間じゃないと社会的には見られるのじゃないか
「正社員ということに価値を置いてはいない。安定性と無価値は比べられない」「価値観の問題だから」「言われてくじけるようじゃ、本当にやりたいことではないのではないか」「浮き草商売と親にも言われた」「親という目線から見ると、まともに育ってほしいと。それは親からの見方で、子どもから見るとそうじゃない。兄弟の上の2人はまともに国立大学に行った。ここで負けてしまったら本当に負けだと思っている。お母さんが信じているのは彼女にとっての真実。ただ元に戻そうとするだけ」「私の親は、あんたの人生はあんたの人生なんだから好きなようにやりなさいと言う。ただ、お金を家に入れることだけは守っている」

     *     *     *

 聞き役に回った高校生や大学生たちは、フリーターたち(3人とも女性)の迫力にほとんど圧倒されっぱなし。フリーターの方が年上ということもあるだろうが、フリーターの人たちが自分の目的実現に向けてそれなりに社会経験を積んできたということもあるのだろう。

 一人の大学生が「普通に学校に行っていると、それだけで安心感がある。自分を突き詰めて考えない。学校では自分を見つめることがしにくい。僕も大学生だが、自分を見つめ切れていない」と言っていたのはこの辺の事情を物語っているとも言える。

 しかし、そこに女性特有の強さのようなものも感じられた。男性のフリーターの場合は、ここまで開き直って堂々と語れるかどうか。むしろ、社会の「常識の目」を強く意識して引け目を感じる場合が多いのではないかとも思われる。

 しかしいずれにしても、総じてこの高校生の交流会でのフリータとのやり取りから感ずることは、質問する高校生や大学生とフリーターの女性達との、不思議と称すべきか当たり前と称すべきか、両者の大いなる共通点や類似点である。つまり、この高校生や大学生とフリーターの人たちとの間には、ほとんど気持ちや感覚の違いはないということである。フリーター指向は一部の若者の傾向ではなく、たとえフリーターにはならなくても、広く全体的な若者の心的傾向となってきているようである。そして、この傾向は産業の構造的変化や雇用の変化と相呼応して、卵が先か鶏が先かのような奇妙な状況を創り出していると言える。
 
■各種の調査から

 フリーター問題は産業の構造的な変化や今後の就職・雇用状況や労働への若者の意識を探る上でも見逃せない。そこで最近になって公的な機関や民間の調査機関などが様々な調査を行い始めている。その幾つかを紹介してみたい。

 文部省は2月から3月にかけて1997年と99年でフリーターとなった約2000人を対象に初めてアンケート調査を行った。それによると、99年卒のフリーターの場合、在学中の進路希望で就職が64%、進学や就職以外にやりたいことがあったが26%、何もしたくなかったは11%。フリーターなった理由としては、「採用されなかった」が97年は37%、99年は51%で、雇用状況の悪化が背景にあるようだ。フリーターになったことについて、99年卒は「真剣に努力すればよかった」21%、「やりたいことが分からなかったからやむを得ない」22%と計43%に悔やむ気持ちがある。一方、「ほかにやりたいことがあったから後悔はしていない」「好きなことができるので就職しなくてよかった」と30%の人が肯定的に捉えている。ただ、半数の人は「高校時代にやりたい職業を見つけておけばよかった」と答えている。

 また、フリーターを持つ親の約半数が「厳しい就職状況だから」「就きたい仕事が見つかるまでの猶予期間ならば」と、パラサイト・フリーターとしての子どもの現状を容認している。就職難とは別に、子どもを養える親が増えているということもその背景にはありそうだ。

 労働省の外郭団体・日本労働研究機構が今年1月、首都圏の4都県の高校52校の3年生約7900人に行った進路や意識についての調査で、12%の生徒がフリーターを予定し、4人に1人が将来フリーターになるかもしれないと思っているという結果が出た。就職が34%、専門学校が28%、大学・短大が22%だった。フリーター予定者の33%が就職・進学断念型、23%が目的追求型、15%が自由志向型。特徴的なのは、フリーター予定者がそれ以外の生徒に比べアルバイト経験が豊富で、アルバイトで生活する自信を持ったり、正社員のつまらなさを見聞しているということである。

■企業の雇用形態の変化

 4月に発表された労働力調査では、大卒や高卒の就職浪人が32万人に達したという。24歳以下の失業率も11・3%で、いずれも過去最悪の数値を示した。若者の就労に対する意識の変化だけでなく、長引く不況の中で、企業が人材採用に厳しくなっていることが背景にある。これからは「本当に必要な人を必要な時だけに雇う」傾向がさらに強まりそうだ。時間と金をかけて人材を育てる余裕はもはや企業にはない。即戦力としての派遣社員やパートに企業は頼ろうとしている。だから、業務が高度化した職場では、高校での職業教育の指導では、企業が求めるレベルに達しないという現状もあるという。高卒者の技能レベルでは企業の要求を満たせなくなってきているのだ。

 また、企業の側から若者や高校での指導への批判もある。アジア各国の若者は積極的にキャリアアップに取り組んでいるが、日本の若者は与えられた仕事をこなすだけという批判だ。埼玉県内の高卒者の約4割は就職して3年以内に退職するという。

 こういう動向に対応するため、高校でフリーター防止教育や企業OBの出前講座、職場の体験学習、インターンシップなどが試みられるようになってきた。しかし、指導教師の負担、受け入れ企業、安全性の問題、それに高校生の職業意識や即戦力を求める企業側の問題などもあり、効果や波及の程は未知数だ。

■あなたは何ができるのか

 作家の藤本義一さんが7月10日付けの朝日新聞に「フリーターはフリーザーだ」というタイトルでこの問題に鋭い一瞥を投げかけている。「若者の特権はどの時代でも本能的なカンで生きているところがある」と言い、若者は「ぐうだら精神の持ち主に見えるが、その奥には現代の企業形態の本質を本能的に受け取っていると思える」と言う。「父親世代を見て、おお!なんと哀れな親父たちよと思っているのだろう」と。窓際族どころか「窓の外のサッシにぶら下がっている先輩や親父世代を嘲笑気味に見ているのだ」と。どの政党もリストラ(解雇)促進の法制で一致している。だから、「フリーターとして健康な場にいる方がましと若者のカンは判断したのだろう」と。そして、「リストラ解雇を規制する法律が明らかになるまで彼らは解凍せず数を増していく」と見る。井原西鶴の研究家でもある氏の鋭い一瞥である。

 しかし、作家・自由業という「フリーターの大先輩」は、「なにがしたいというのは中学生までや。なにが出来るかを証明せんと生きていけんで」と、夢見るフリーターに一喝することも忘れてはいない。
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※文部省の専門家懐疑は高校生の就職試験の解禁に先立ち、高校生の就職ついて「指定校制」「1人1社制」「校内選考」などの慣行を見直すよう中間報告をまとめた。しかし、藤本義一さんが指摘しているように、労働者の保護がないままにリストラが横行している現在、それによって若者のフリーター指向が終息に向かうかどうかは未知数と言える。将来の社会の不安定要因となる懸念を拭えぬまま、フリーターは増殖し続けている。


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