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ある同窓会


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ある同窓会     東京都 元教育相談員 T・H

 私が以前教育相談員として勤務していた公立の適応指導教室の同窓会が今年も開かれます。この教室が開設されて今年で十四年目、同窓会は八年前から毎年夏休み中に開かれています。

 同窓会を持とうかと計画を立て始めた時、果たして参加者がいるかどうかという危惧が相談員たちの間にあったのです。この教室を巣立ち、社会人や高校・大学生になっている卒業生たちは、自分がかつて不登校生徒であったことに引け目を感じ、そしてそれを隠そうとする思いがあるのではないか。もしそうだとすれば、同窓会などには出席したくないという気持ちが強いのではないか、という同窓会を持つことにむしろ消極的な意見もあったのです。しかし、この教室で私たち相談員とあれほど涙して語り合い、心を開き、そして励まし合った生徒たちが、この教室を忘れるはずはないという思いと、卒業後の生徒たちがどのように成長し、いかなる人生を今切り開きつつあるのかを子の目で確かめてみたい、という強い願いが私たち相談員に第一回同窓会の開催を踏み切らせたのです。

 その当日、平成八年八月三日(土)、いざふたを開けてみると、卒業生60名のうち、その半数以上の参加があったのです。相談員たちの不安はすっかり消えてしまい、嬉しさに溢れた一日だったのです。以来毎年の夏休み中にこの同窓会は開かれ、今年で七回目になります。参加しているどの卒業生にもこの教室に通っていた頃のひ弱さや暗さは見えず、今は明るく、たくましく成長していることを感じさせてくれます。

 昨年の同窓会にも30名近くの卒業生が集まり、狭い教室はいっぱいになりました。会費は700円、ピザをつまみ、コーラを飲み、クッキーをかじってのおしゃべりです。

 第一回の卒業生A君はもう27歳になるそうで、四年制大学を卒業し、一時は会社勤めをしたが今は司法試験の合格を目指して勉強中であると元気に語り、またB君は塗装業を自営していて毎日が忙しいと誇らしげに話していました。高三のC子はこの教室での生活がどんなに自分を支え、救ってくれたか、自分の居場所はここしかなかったのだと涙しながら語ってくれました。

 おしゃべりも弾んだ楽しい雰囲気の中で、私はこの会に参加していないかなりの数の卒業生のことを想った。彼らが「今」をどう生きているのか。そして通級当時の彼らは相談員の言葉をどのように受け止めていたのか、私を信じてくれていたのだろうか、とても不安になり居ても立ってもいられない気持ちになったのです。立ち上がりたくなる気持ちを抑えて、隣のS相談員の様子をうかがうと、持ち前のおだやかな表情を浮かべて、その隣の卒業生の言葉に静かに相づちを打っておられました。そのやさしい雰囲気に引き込まれて私の気持ちも落ち着きました。

 私は心の中で「不登校生徒であったことは何ら恥ずかしいことではない。『今』をどう生きているかということが大切なのだ、がんばってくれよ。」と祈るばかりでした。



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