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「DON'T」から「LET'S」へ……「ゆるし」が人を救う


2003/04/29
■「DON'T」から「LET'S」へ……「ゆるし」が人を救う……日野原重明さんの言葉から

 日野原重明(聖路加国際病院名誉院長)さんが朝日新聞「心と体」のページに『あるがまま行く』というタイトルで定期的にエッセーを連載しています。そのどの章もが長い人生経験と深い思考に根ざした大変やさしい文章のなのですが、2月1日に掲載された「ゆるしの心 世界へ発信を」−平和について−というタイトルの文章に深く共鳴しました。

 日野原さんは「反撃は憎しみの連鎖を生むだけ」といい、ホスピスに入院してきたある別居中の初老の女性」が、夫をゆるす気持ちになったとき相手の態度も変わり、心が救われて亡くなっていったと述べています。相手に「自分の望むように変わってくれ」といっても難しい。相手をゆるし、「私」が変わることによって相手も変わり、事態も変わるいうのです。

 そして、病院の老人たちには、自ら体験した戦争を子どもたちは物語って欲しいとも言います。しかしそれは「殺すな」「核兵器を持つな」の「DON'T」ではなく、「人の命を大切にしよう」、「動物を愛そう」、そして「花木までも」という「LET'S」の話をしてほしいと。

 とかく私たちは相手を批判しがちです。そして、何かの行動も「反〜」ということが多いのです。今回のアメリカによるイラク攻撃の時も、世界中の大部分の国々が反対し、一千万人に上る反戦デモもありました。しかし、それでも戦争を止められませんでした。何故だったのでしょう。

 それは一つには、他国が束になっても太刀打ちできない圧倒的な軍事力を米国が持っていたからだということは言えそうです。しかし、肝心なことは、反対の意見表明や反対運動だけでは、米国の為政者を納得させ翻意させる力にはならなかったということです。よく会社等の会議の席では、「反対意見があるなら対案を出せ」というようなことが言われますが、残念ながら、今回の戦争には相手の気持ちを変えるに足るものが用意できなかったということになります。いや、そもそも、敵対し反対するだけでは、それは初めから無理な話でもあったのです。漫画の「ドラエモン」にたとえるなら、ジャイアンの怒りを鎮めるものをノビ太が出せなかったということになります。これはいいか悪いかの次元とは別の話です。

 そういう意味で、日野原さんが「ゆるし」を説き、「LET'S」を勧めることにはとても説得力があるように思います。それは一見、現実に対してとても弱々しく、かつ無力なようにも見えます。しかし、その弱さこそが何にも勝って強いものだとも言えるのではないでしょうか。ですから、子どもに対しても「〜するな」の禁止の「DON'T」ではなく、自ら率先して行い、相手の心をも行動をも促す「〜しよう」の「LET'S」を使うようにしたいものです。そうすれば、子どもは非難され叱られるのを恐れて行動を躊躇することなく、自らの望ましい方向に向けて生き生きと行動し、周りの人たちにも働きかけていくようになっていくのではないでしょうか。そういう中から「生きる力」としてのたくましさを自然に見につけていくのではないでしょうか。批判の意識が相手だけでなく自分の心をも固めてしまうことはよくあることなのです。


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