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ぼくは大工さんがいいな


1999/10
■ぼくは大工さんがいいな

「苦しいときこそ笑いが必要なんや。笑うところから道は開ける。心に効く笑いは副作用を及ぼさない」とは、落語家・林正之助さんの言葉です。
 さすが、名人といわれる人の言うことはひと味違います。しかも、それは机上で思いついたような出来合いの言葉ではなく、芸人としての長きにわたる実践を通して体得した信念に裏付けられた言葉ですから、強い説得力があります。

 昔、「職人」といわれた多くの人は、必ずその人ならでは、その職業ならではの金言・格言に類する言葉をもっていたような気がします。その市井の無名の人の言葉が、時には高名な方の言葉よりも、ずっと胸にずしっと響くものをもってさえいました。
 ところが、技術革新の現代は、職人にとっては受難の時代です。職人の技が次々と機械を駆使する素人に取って代わられました。職人は次第に姿を消し、それと共にまた、あの含蓄に富んだ言葉も消えていったように思います。
 これは時代の趨勢とはいえ、社会にとって決して好ましいことではない気がします。実際、自分の職業に気概をもって働く人が少なくなったような気がしています。
 JCOの核燃料事故をはじめ、トンネルのコンクリート片の崩落事故や各種のずさんな工事など、常識では考えられないような事故や事件が多発していますが、それはもしかすると、職人気質の人が社会の中で育たなくなったことと無関係ではないのかもしれません。

 ところが、最近の民間の調査で、今、小学生以下の子どもたちのなりたい職業の第一位は、男の子の場合、「大工さん」なのだそうです。それを知って、私はなぜかほっとするものを感じました。子どもというものは、実にバランス感覚のいいものだと感心します。自然のもつ知恵のようなものが子どもたちの中にまだ失われずに残っているのかもしれません。
 子どもたちのそのような素直な感性をどうしたらまっすぐに育ててあげられるのでしょうか。21世紀に負の遺産ばかりでは何とも子どもたちに申し訳ない気がしています。        (A)



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